2010/01/21 21:56:09
名古屋ボストン美術館に行きました。
名古屋ボストン美術館に「永遠〔とわ〕に花咲く庭」〔2009年12月12日(土)~2010年4月4日(日)〕を見に行きました。
※名古屋ボストン美術館のサイトの「永遠〔とわ〕に花咲く庭」のページ:http://www.nagoya-boston.or.jp/exhibition/list/garden-200912/outline.html

ヨーロッパで、古くから描かれていた植物画は、植物学の誕生と版画技法の発達により、科学的な正確さと芸術的な美しさとを兼ね備えたものとなったそうです。この展覧会は、17~19世紀に制作された114点の植物画の秀作により、時を越えて色鮮やかに咲き続ける花々の魅力と西洋植物画の発展の歴史を紐解くものとのことです。
展示は、8つのコーナーに分かれていました。
プロローグ
1613年、ニュルンベルク出身の本草家バジル・ベスラーが出版した銅版エングレーヴィングによる大型本『アイヒシュテット庭園植物誌』は、植物の特徴や美しさを表すための植物画への転換期を示す作品だそうです。
中でも「大輪ひまわり」が印象的でした。
※「大輪ひまわり」(『アイヒシュテット庭園植物誌』バジル・ベスラー:第3版・1713年、エングレーヴィング):名古屋ボストン美術館のサイトから
1.17世紀フランスの植物画にみる二つの傾向
17世紀のフランスでは、王立植物園の造園に伴い、科学的傾向と装飾的傾向の二つの植物画が発展したそうです。
装飾的傾向の作品では、自由で繊細な表現を可能とするエッチングが好まれたとのことです。
2.18世紀:芸術と科学の結合
18世紀になると世界各地から多様な植物がヨーロッパ大陸にもたらされ、植物学が流行の学問となり、リンネによって植物の分類体系が整えられたそうです。
植物画では植物の全体から花自体に目が向けられ、芸術的かつ科学的な植物画が生みだされたとのことです。
ここでは、『スリナム産昆虫変態図譜』の「芋虫と蛾のいるスイカ」が印象的でした。
また、『植物図選』の植物画は、現在の植物図鑑の描き方とほとんど同じで、驚きました。
※「芋虫と蛾のいるスイカ」( 『スリナム産昆虫変態図譜』マリア・シビラ・メリアン:1705年、エングレーヴィング):名古屋ボストン美術館のサイトから
※「ホウノキ?」( 『植物図選』クリストフ・ヤーコプ・トルー:1750~1773年、エングレーヴィング):名古屋ボストン美術館のサイトから
3.フランスにおける新たな発展
18世紀末にフランスの植物画は、科学的伝統と装飾的伝統が結合し、花をより美しく現実的に再現するような版画技法が用いられるようになり、植物画はさらに発展したそうです。
ここでは、『花の写生集』の「ヒヤシンス」の美しさが目を引きました。
4.ルドゥーテとソーントンの時代:19世紀のフランスとイギリス
19世紀のフランスでは、美しくかつ科学的に正確な植物画が、また、イギリスでは、さまざまな製版技法を駆使して芸術的な植物画が生み出されたとのことです。
ここでは、『英国果実誌』の「セイヨウミザクラの3変種」に不思議な魅力を感じました。
5.焦点の変化:庭園全体からひとつひとつの種へ
植物画は、次第にバラやツバキといった単一の属を選んで描かれるようになり、ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテの『バラ図譜』は、図版の技術的完成度と繊細な色彩において、あらゆる植物画のなかで最も美しいものといわれているそうです。
この作品で、ルドゥーテは点の集合で陰影を表現する銅版画の技法であるスティップル・エングレーヴィング(点刻彫版法)を用いています。
この技法は、淡く、上品なグラデーションを可能とし、画から輪郭線を一掃することができるそうです。
また、18世紀の初めに日本からヨーロッパに紹介され、人気となったツバキも植物画に良く取り上げられたとのことです。
この展覧会のポスターにも『ツバキ属誌』が使われています。
※「ローザ・カムチャチカ」( 『バラ図譜』ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ:1817年、エングレーヴィング):ボストン美術館のサイトから
※「アネモネ咲あるいはワラタツバキ/バラ色あるいはミドルミストツバキ」(『ツバキ属誌』サミュエル・カーティス:1819年、エッチング):ボストン美術館のサイトから
6.石版刷り技法(リトグラフ)
ここでは、特定の植物に特化された植物画の最終段階として、1854年にボストンで出版された『オオオニバス』から、オオオニバスの開花の過程を描いた6点の図版が展示されていました。
中でも、「葉の裏面」は非常に繊細な描写で、花は描かれていないのですが、私にはこの展覧会の中で最も美しく感じました。
この作品は、19世紀初頭に登場した多色石版刷という新しい版画技法が用いられているとのことです。
※「完全な開花」( 『オオオニバス:アメリカの巨大スイレン』ヨハン・フィスク・アレン:1854年、リトグラフ):ボストン美術館のサイトから
エピローグ:時代の終焉
最後に、1839年の写真の発明によって、伝統的な植物画に終止符が打たれたことが説明されていました。

平日の午後ということもあってか、館内にはボタニカルアートを趣味にしているらしき女性のグループが数組いたほかは、あまり人はいませんでした。かなり地味な展覧会なので、今後も入館者はあまり見込めないかもしれません。
しかし、展示方法や説明も工夫されていて見やすい展覧会でした。
何より、美しい花の絵を眺め、春を先取りした気分になることができ、心も落ち着きました。
名古屋ボストン美術館に「永遠〔とわ〕に花咲く庭」〔2009年12月12日(土)~2010年4月4日(日)〕を見に行きました。
※名古屋ボストン美術館のサイトの「永遠〔とわ〕に花咲く庭」のページ:http://www.nagoya-boston.or.jp/exhibition/list/garden-200912/outline.html

ヨーロッパで、古くから描かれていた植物画は、植物学の誕生と版画技法の発達により、科学的な正確さと芸術的な美しさとを兼ね備えたものとなったそうです。この展覧会は、17~19世紀に制作された114点の植物画の秀作により、時を越えて色鮮やかに咲き続ける花々の魅力と西洋植物画の発展の歴史を紐解くものとのことです。
展示は、8つのコーナーに分かれていました。
プロローグ
1613年、ニュルンベルク出身の本草家バジル・ベスラーが出版した銅版エングレーヴィングによる大型本『アイヒシュテット庭園植物誌』は、植物の特徴や美しさを表すための植物画への転換期を示す作品だそうです。
中でも「大輪ひまわり」が印象的でした。
※「大輪ひまわり」(『アイヒシュテット庭園植物誌』バジル・ベスラー:第3版・1713年、エングレーヴィング):名古屋ボストン美術館のサイトから
1.17世紀フランスの植物画にみる二つの傾向
17世紀のフランスでは、王立植物園の造園に伴い、科学的傾向と装飾的傾向の二つの植物画が発展したそうです。
装飾的傾向の作品では、自由で繊細な表現を可能とするエッチングが好まれたとのことです。
2.18世紀:芸術と科学の結合
18世紀になると世界各地から多様な植物がヨーロッパ大陸にもたらされ、植物学が流行の学問となり、リンネによって植物の分類体系が整えられたそうです。
植物画では植物の全体から花自体に目が向けられ、芸術的かつ科学的な植物画が生みだされたとのことです。
ここでは、『スリナム産昆虫変態図譜』の「芋虫と蛾のいるスイカ」が印象的でした。
また、『植物図選』の植物画は、現在の植物図鑑の描き方とほとんど同じで、驚きました。
※「芋虫と蛾のいるスイカ」( 『スリナム産昆虫変態図譜』マリア・シビラ・メリアン:1705年、エングレーヴィング):名古屋ボストン美術館のサイトから
※「ホウノキ?」( 『植物図選』クリストフ・ヤーコプ・トルー:1750~1773年、エングレーヴィング):名古屋ボストン美術館のサイトから
3.フランスにおける新たな発展
18世紀末にフランスの植物画は、科学的伝統と装飾的伝統が結合し、花をより美しく現実的に再現するような版画技法が用いられるようになり、植物画はさらに発展したそうです。
ここでは、『花の写生集』の「ヒヤシンス」の美しさが目を引きました。
4.ルドゥーテとソーントンの時代:19世紀のフランスとイギリス
19世紀のフランスでは、美しくかつ科学的に正確な植物画が、また、イギリスでは、さまざまな製版技法を駆使して芸術的な植物画が生み出されたとのことです。
ここでは、『英国果実誌』の「セイヨウミザクラの3変種」に不思議な魅力を感じました。
5.焦点の変化:庭園全体からひとつひとつの種へ
植物画は、次第にバラやツバキといった単一の属を選んで描かれるようになり、ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテの『バラ図譜』は、図版の技術的完成度と繊細な色彩において、あらゆる植物画のなかで最も美しいものといわれているそうです。
この作品で、ルドゥーテは点の集合で陰影を表現する銅版画の技法であるスティップル・エングレーヴィング(点刻彫版法)を用いています。
この技法は、淡く、上品なグラデーションを可能とし、画から輪郭線を一掃することができるそうです。
また、18世紀の初めに日本からヨーロッパに紹介され、人気となったツバキも植物画に良く取り上げられたとのことです。
この展覧会のポスターにも『ツバキ属誌』が使われています。
※「ローザ・カムチャチカ」( 『バラ図譜』ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ:1817年、エングレーヴィング):ボストン美術館のサイトから
※「アネモネ咲あるいはワラタツバキ/バラ色あるいはミドルミストツバキ」(『ツバキ属誌』サミュエル・カーティス:1819年、エッチング):ボストン美術館のサイトから
6.石版刷り技法(リトグラフ)
ここでは、特定の植物に特化された植物画の最終段階として、1854年にボストンで出版された『オオオニバス』から、オオオニバスの開花の過程を描いた6点の図版が展示されていました。
中でも、「葉の裏面」は非常に繊細な描写で、花は描かれていないのですが、私にはこの展覧会の中で最も美しく感じました。
この作品は、19世紀初頭に登場した多色石版刷という新しい版画技法が用いられているとのことです。
※「完全な開花」( 『オオオニバス:アメリカの巨大スイレン』ヨハン・フィスク・アレン:1854年、リトグラフ):ボストン美術館のサイトから
エピローグ:時代の終焉
最後に、1839年の写真の発明によって、伝統的な植物画に終止符が打たれたことが説明されていました。

平日の午後ということもあってか、館内にはボタニカルアートを趣味にしているらしき女性のグループが数組いたほかは、あまり人はいませんでした。かなり地味な展覧会なので、今後も入館者はあまり見込めないかもしれません。
しかし、展示方法や説明も工夫されていて見やすい展覧会でした。
何より、美しい花の絵を眺め、春を先取りした気分になることができ、心も落ち着きました。