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今日は、『無惨』の下篇を紹介します。

この下篇(氷解)では、谷間田刑事に捕まったお紺が荻沢警部に事件の背景と真相を話します。

岡っ引き上がりで経験を重視する中年の谷間田刑事と、西洋流を信奉する青年の、大鞆刑事の組み合わせはなかなか斬新です。
対照的な二人の推理合戦というような構成をめざしていたのかもしれませんが、話が推理の説明に終始したため、読み終えると二人の対立が単に仲が悪いだけだったように見えてしまいます。

黒岩が多く手がけ、当時大人気となった翻案小説のように、冒険譚風にするとか、怪奇色を加えれば、当時の読者に受け入れられたかもしれません。

ただ、黒岩は純粋推理中心の探偵小説を書きたかったのだと言われていますので、こういう作品になったのでしょう。


無惨』(黒岩涙香

下篇(氷解)

 全く谷間田の云いし如くお紺の言立にも此事件の大疑団は氷解したり今お紺が荻沢警部の尋問に答えたる事の荒増を茲に記さん
 妾(お紺)は長崎の生れにて十七歳の時遊廓に身を沈め多く西洋人支那人などを客とせしが間もなく或人に買取られ上海に送られたり上海にて同じ勤めをするうちに深く妾を愛し初めしは陳施寧と呼ぶ支那人なり施寧は可なりの雑貨商にして兼てより長崎にも支店を開き弟の陳金起と言える者を其支店に出張させ日本の雑貨買入などの事を任せ置きたるに弟金起は兎角放埓にして悪しき行い多く殊に支店の金円を遣い込みて施寧の許へとては一銭も送らざる故施寧は自ら長崎に渡らんとの心を起し夫にしてはお紺こそ長崎の者なれば引連れ行きて都合好きこと多からんと終に妾を購いて長崎に連れ来れり施寧は生れ附き甚だ醜き男にして頭には年に似合ぬ白髪多く妾は彼れを好まざれど唯故郷に帰る嬉さにて其言葉に従いしなり頓て連られて長崎に来り見れば其弟の金起と云えるは初め妾が長崎の廓にて勤めせしころ馴染を重ねし支那人にて施寧には似ぬ好男子なれば妾は何時しかに施寧の目を掠めて又も金起と割無き仲と無れり去れど施寧は其事を知らず益々妾を愛し唯一人なる妾の母まで引取りて妾と共に住わしめたり母は早くも妾が金起と密会する事を知りたれど別に咎むる様子も無く殊に金起は兄施寧より心広くしてしば/\母に金など贈ることありければ母は反って好き事に思い妾と金起の為めに首尾を作る事もある程なりき其内に妾は孰かの種を宿し男の子を儲けしが固より施寧の子と云いなし陳寧児と名けて育てたり是より一年余も経たる頃風とせしことより施寧は妾と金起との間を疑い痛く怒りて妾を打擲し且つ金起を殺さんと迄に猛りたれど妾巧みに其疑いを言解きたり斯くても妾は何故か金起を思い切る心なく金起も妾を捨るに忍びずとて猶お懲りずまに不義の働きを為し居たり、寧児が四歳の時なりき金起は悪事を働き長崎に居ることが出来ぬ身と為りたれば妾に向いて共に神戸に逃行かんと勧めたり妾は早くより施寧には愛想尽き只管ら金起を愛したるゆえ左らば寧児をも連れて共に行かんと云いたるに
そは足手纏いなりとて聞入るゝ様子なければ詮方なく寧児を残す事とし母にも告げず仕度を為し翌日二人にて長崎より舩に乗りたり後にて聞けば金起は出足に臨み兄の金を千円近く盗み来たりしとの事なり頓て神戸に上陸し一年余り遊び暮すうち、金起の懐中も残り少くなりたれば今のうち東京に往き相応の商売を初めんと又も神戸を去り東京に上り来たるが当時築地に支那人の開ける博奕宿あり金起は日頃嗜める道とて直に其宿に入込みしも運悪くして僅に残れる金子さえ忽ち失い尽したれば如何に相談せしか金起は妾を其宿の下女に住込ませ己れは「七八」の小使に雇れたり




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