ガクアジサイの花

ガクアジサイも咲き始めていました。

墨田の花火」という名前の園芸種のガクアジサイが咲き始めました。
庭に植えたところ、ほとんど咲かなくなってしまったので、昨年の秋に鉢に植えなおしたら、今年は花をつけたとのことです。

ガクアジサイ2008


ガクアジサイ(額紫陽花)の花の中央部の花は両性花、外周部の花は中性花(装飾花)と呼ばれているそうです。
両性花は雄しべと雌しべが揃っている花で、中性花は両方とも無い花とのことです。
西洋アジサイは、ガクアジサイをこの中性花だけで構成するよう品種改良したものだそうです。
もともと日本に野生で生えていたアジサイは、ガクアジサイだったので、明治時代の初めまでは、アジサイといえばガクアジサイのことを指しました。
ガクアジサイの「ガク」は、周辺の大きな中性花が中央の細かい両性花を取り囲んだ花の形を、江戸時代に額縁に見立てたことに由来するとのことです。

このガクアジサイ中性花が、白色で八重咲のものが「墨田の花火」です。中性花の柄が長いところを散る花火に見立てたようです。
名前のとおり花火のように美しい花です。

アジサイの大好きだった泉鏡花には、『紫陽花』という題の作品もあります。

10歳ほどの氷売りの美少年に、高貴な女性が声をかけます。
少年は、氷を渡そうとしますが、継母に炭を切ったのこぎりを渡されたため少年の切った氷は黒く汚れてしまいます。
黒く汚れた氷を受け取ってもらえないうちに、少年の持っている氷はだんだん小さくなっていってしまいます。


紫陽花』(泉鏡花)



 色青く光ある蛇、おびただししく棲めればとて、里人は近よらず。其野社は、片眼の盲ひたる翁ありて、昔より斉眉けり。
 其片眼を失ひし時一たび見たりと言ふ、几帳の蔭に黒髪のたけなりし、それぞ神なるべき。
 ちかきころ水無月中旬、二十日余り照り続きたる、けふ日ざかりの、鼓子花さへ草いきれに色褪せて、砂も、石も、きらきらと光を帯びて、松の老木の梢より、糸を乱せる如き薄き煙の立ちのぼるは、木精とか言ふものならむ。おぼろおぼろと霞むまで、暑き日の静さは夜半にも増して、眼もあてられざる野の細道を、十歳ばかりの美少年の、尻を端折り、竹の子笠被りたるが、跣足にて、
「氷や、氷や。」
 と呼びもて来つ。其より市に行かんとするなり。氷は筵包にして天秤に釣したる、其片端には、手ごろの石を藁縄もて結びかけしが、重きもの荷ひたる、力なき身体のよろめく毎に、石は、ふらゝこの如くはずみて揺れつ。
 とかうして、此の社の前に来りし時、太き息つきて立停りぬ。
 笠は目深に被りたれど、日の光は遮らで、白き頸も赤らみたる、渠はいかに暑かりけむ。
 蚯蚓の骸の干乾びて、色黒く成りたるが、なかばなまなましく、心ばかり蠢くに、赤き蟻の群りて湧くが如く働くのみ、葉末の揺るる風もあらで、平たき焼石の上に何とか言ふ、尾の尖の少し黒き蜻蛉の、ひたと居て動きもせざりき。
 かかる時、社の裏の木蔭より婦人二人出で来れり。一人は涼傘畳み持ちて、細き手に杖としたる、いま一人は、それよりも年少きが、伸上るやうにして、背後より傘さしかけつ。腰元なるべし。
 丈高き貴女のつむりは、傘のうらに支ふるばかり、青き絹の裏、眉のあたりに影をこめて、くらく光るものあり、黒髪にきらめきぬ。
 怪しと美少年の見返る時、彼の貴女、腰元を顧みしが、やがて此方に向ひて、
「あの、少しばかり。」
 暑さと疲労とに、少年はものも言ひあへず、纔に頷きて、筵を解きて、笹の葉の濡れたるをざわざわと掻分けつ。
 雫落ちて、雪の塊は氷室より切出したるまま、未だ角も失せざりき。其一角をば、鋸もて切取りて、いざとて振向く。睫に額の汗つたひたるに、手の塞がりたれば、拭ひもあへで眼を塞ぎつ。貴女の手に捧げたる雪の色は真黒なりき。
「この雪は、何うしたの。」
 美少年はものをも言はで、直ちに鋸の刃を返して、さらさらと削り落すに、粉はばらばらとあたりに散り、ぢ、ぢ、と蝉の鳴きやむ音して、焼砂に煮え込みたり。



 あきなひに出づる時、継母の心なく嘗て炭を挽きしままなる鋸を持たせしなれば、さは雪の色づくを、少年は然りとも知らで、削り落し払ふままに、雪の量は掌に小さくなりぬ。
 別に新しきを進めたる、其もまた黒かりき。貴女は手をだに触れむとせで、
「きれいなのでなくつては。」
 と静にかぶりをふりつゝいふ。
「えゝ。」と少年は力を籠めて、ざらざらとぞ掻いたりける。雪は崩れ落ちて砂にまぶれつ。
 渋々捨てて、新しきを、また別なるを、更に幾度か挽いたれど、鋸につきたる炭の粉の、其都度雪を汚しつつ、はや残り少なに成りて、笹の葉に蔽はれぬ。
 貴女は身動きもせず、瞳をすゑて、冷かに瞻りたり。少年は便なげに、
「お母様に叱られら。お母様に叱られら。」
 と訴ふるが如く呟きたれど、耳にもかけざる状したりき。附添ひたる腰元は、笑止と思ひ、
「まあ、何うしたと言ふのだね、お前、変ぢやないか。いけないね。」
 とたしなめながら、
「可哀さうでございますから、あの……」と取做すが如くにいふ。
「いゝえ。」
 と、にべもなく言ひすてて、袖も動かさで立ちたりき。少年は上目づかひに、腰元の顔を見しが、涙ぐみて俯きぬ。
 雪の砕けて落散りたるが、見る見る水になりて流れて、けぶり立ちて、地の濡色も乾きゆくを、怨めしげに瞻りぬ。
「さ、おくれよ。いいのを、いいのを。」
 と貴女は急込みてうながしたり。
 こたびは鋸を下に置きて、筵の中に残りたる雪の塊を、其まま引出して、両手に載せつ。
「み、みんなあげよう。」
 細りたる声に力を籠めて突出すに、一掴みの風冷たく、水気むらむらと立ちのぼる。
 流るる如き瞳動きて、雪と少年の面を、貴女は屹とみつめしが、
「あら、こんなぢや、いけないツていふのに。」
 といまは苛てる状にて、はたとばかり掻退けたる、雪は辷り落ちて、三ツ四ツに砕けたるを、少年のあなやと拾ひて、拳を固めて掴むと見えし、血の色颯と頬を染めて、右手に貴女の手を扼り、ものをも言はで引立てつ。
「あれ、あれ、あれえ!」
 と貴女は引かれて倒れかゝりぬ。
 風一陣、さらさらと木の葉を渡れり。



 腰元のあれよと見るに、貴女の裾、袂、はらはらと、柳の糸を絞るかのやう、細腰を捩りてよろめきつつ、ふたたび悲しき声たてられしに、つと駈寄りて押隔て、
「ええ! 失礼な、これ、これ、御身分を知らないか。」
 貴女はいき苦しき声の下に、
「いいから、いいから。」
「御前――」
「いいから好きにさせておやり。さ、行かう。」
 と胸を圧して、馴れぬ足に、煩はしかりけむ、穿物を脱ぎ棄てつ。
 引かれて、やがて蔭ある処、小川流れて一本の桐の青葉茂り、紫陽花の花、流にのぞみて、破垣の内外に今を盛りなる空地の此方に来りし時、少年は立停りぬ。貴女はほと息つきたり。
 少年はためらふ色なく、流に俯して、掴み来れる件の雪の、炭の粉に黒くなれるを、その流れに浸して洗ひつ。
 掌にのせてぞ透し見たる。雫ひたと滴りて、時の間に消え失する雪は、はや豆粒のやや大なるばかりとなりしが、水晶の如く透きとほりて、一点の汚もあらずなれり。
 きつと見て、
「これでいいかえ。」といふ声ふるへぬ。
 貴女は蒼く成りたり。
 後馳せに追続ける腰元の、一目見るより色を変えて、横様にしつかと抱く。其の膝に倒れかかりつ、片手をひしと胸にあてて。
 「あ。」とくひしばりて、苦しげに空をあふげる、唇の色青く、鉄漿つけたる前歯動き、地に手をつきて、草に縋れる真白き指のさきわななきぬ。
 はツとばかり胸をうちて瞻るひまに衰へゆく。
「御前様――御前様。」
 腰元は泣声たてぬ。
「しづかに。」
 幽なる声をかけて、
「堪忍おし、坊や、坊や。」とのみ、言ふ声も絶え入りぬ。 
 呆れし少年の縋り着きて、いまは雫ばかりなる氷を其口に齎しつ。腰元腕をゆるめたれば、貴女の顔のけざまに、うつとりと目をき、胸をおしたる手を放ちて、少年の肩を抱きつゝ、ぢつと見てうなづくはしに、がつくりと咽喉に通りて、桐の葉越の日影薄く、紫陽花の色、淋しき其笑顔にうつりぬ。



傲慢ともいえる高貴な女性と継子いじめにあっている少年、そしてそれを見ている紫陽花の花鏡花独特の世界が色濃く現れている短編の一つだと思います。


theme : 樹木・花木
genre : 趣味・実用

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別名『オタクサ』

最近は『お花屋さん』の店頭で、本当に色々な色と形をした『アジサイの鉢植え』を目にする事が多くなってきましたよね…。 花の色が変化していく事から、花言葉は【気まぐれ・七変化】と、決して良い言葉では有りませんが、【シーボルトの西洋人】の目と心に深く印象付けた『日本の梅雨の花』と思うと、殆んどの人々が苦手な『梅雨の時季』も少しだけ、嬉しく感じます。

変わりゆく花の色

Youさん、コメントありがとうございます。
アジサイは、花の色が変化していくことから、日本でも変わりやすい心に例えられていたようです。
そうした色の変化を楽しみながら、そこに無常観を感じる美意識が日本人にはあるように思います。

紫陽花の 末一色と なりにけり (一茶
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