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今日は、夏目漱石の『硝子戸の中』の2回目です。

漱石は、ある雑誌のカメラマンの男に写真撮影の依頼を受けます。笑い顔の写真はいやだと言って断ろうとする漱石を、カメラマンの男は普通の顔で構わないと説得し、結局、写真を撮ってもらうことになります。
ところが、出来上がった写真を見ると作り笑いのような笑みを浮かべた顔の写真だったという話です。


硝子戸の中』(夏目漱石)



 電話口へ呼び出されたから受話器を耳へあてがって用事を訊いて見ると、ある雑誌社の男が、私の写真を貰いたいのだが、いつ撮りに行って好いか都合を知らしてくれろというのである。私は「写真は少し困ります」と答えた。
 私はこの雑誌とまるで関係をもっていなかった。それでも過去三四年の間にその一二冊を手にした記憶はあった。人の笑っている顔ばかりをたくさん載せるのがその特色だと思ったほかに、今は何にも頭に残っていない。けれどもそこにわざとらしく笑っている顔の多くが私に与えた不快の印象はいまだに消えずにいた。それで私は断わろうとしたのである。
 雑誌の男は、卯年の正月号だから卯年の人の顔を並べたいのだという希望を述べた。私は先方のいう通り卯年の生れに相違なかった。それで私はこう云った。――
「あなたの雑誌へ出すために撮る写真は笑わなくってはいけないのでしょう」
「いえそんな事はありません」と相手はすぐ答えた。あたかも私が今までその雑誌の特色を誤解していたごとくに。
「当り前の顔で構いませんなら載せていただいても宜しゅうございます」
「いえそれで結構でございますから、どうぞ」
 私は相手と期日の約束をした上、電話を切った。




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kinkun

Author:kinkun
名古屋春栄会のホームページの管理人

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