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「唯静かに老い朽ちたい。」


姫君は、が帰ってこず、暮らし向きがどんどん苦しくなっているにもかかわらず、こう話します。
普通は、このような状況では、とても静かに老いていくことなどできないということがわかると思うのですが、姫君には、そうした世間のことはわからないようです。
その上、「わたしはもう何も入らぬ。生きようとも死なうとも一つ事ぢや。……」と語るのです。このときの乳母の思いを考えるといたたまれなくなります。


『六の宮の姫君』(芥川龍之介)



六年目の春は返つて来た。
が、奥へ下つた男は、遂に都へは帰らなかつた。
その間に召使ひは一人も残らず、ちりぢりに何処かへ立ち退いてしまふし、姫君の住んでゐた東の対も或年の大風に倒れてしまつた。
姫君はそれ以来乳母と一しよに侍の廊を住居にしてゐた。
其処は住居と云ふものの、手狭でもあれば住み荒してもあり、僅に雨露の凌げるだけだつた。
乳母はこの廊へ移つた当座、いたはしい姫君の姿を見ると、涙を落さずにはゐられなかつた。
が、又或時は理由もないのに、腹ばかり立ててゐる事があつた。





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kinkun

Author:kinkun
名古屋春栄会のホームページの管理人

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