fc2ブログ
2024 / 02
≪ 2024 / 01   - - - - 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 - -  2024 / 03 ≫

最後は被害者である金沢武弘

事件の関係者7人の話の最後は、この殺人事件の被害者である金沢武弘の話です。
…と言っても、金沢武弘は既に死んでいますから、その死霊が巫女の口を通して語ったことになっています。
常識的に言えば、被害者の証言が真実に違いないのですが、そもそも「死霊が巫女の口を通して」という設定が常識的ではないので、この話も真実かどうか疑問が残ります。
そして、ここでも小刀が凶器とされています。
『おれの前には妻が落した、小刀が一つ光っている。』
小刀は、多襄丸が打ち落としたままだったのでしょうか。
『わたしも多襄丸ですから、どうにかこうにか太刀も抜かずに、とうとう小刀を打ち落しました。』「多襄丸の白状」

『誰か、――その誰かは見えない手に、そっと胸の小刀を抜いた。』
小刀を引き抜いたのは誰なのでしょうか。
『それから、――そうそう、縄のほかにも櫛が一つございました。』「検非違使に問われたる木樵りの物語」
櫛が落ちていたことから、小刀を抜いたのは真砂とする説もあります。さらに、この木樵りの証言から、真砂真犯人説を唱える人もいます。
『小刀を喉に突き立てたり、山の裾の池へ身を投げたり、いろいろな事もして見ましたが、死に切れずにこうしている限り、これも自慢にはなりますまい。』 (「清水寺に来れる女の懺悔」
しかし、私は、真砂が小刀を持って自殺しようとしたと言っていることから、真砂が小刀を抜いて持ち去ったと思います(真犯人かどうかは別として…)。

一方、周辺にあまり血が飛び散っていないことから、霊が巫女の口を通して語ったとおり、金沢武弘は自殺で、小刀は血がすっかり流れ出た後に木樵りによって盗まれたという説もあります。
『死骸のまわりの竹の落葉は、蘇芳に滲みたようでございます。』「検非違使に問われたる木樵りの物語」

真実はやはり藪の中なのでしょうか。

黒澤明監督の映画『羅生門』では、金沢武弘森雅之が演じています。
森雅之は、本名、有島行光(ありしま ゆきてる)、小説家の有島武郎の長男です。


『藪の中』(芥川龍之介)

巫女の口を借りたる死霊の物語

――盗人は妻を手ごめにすると、そこへ腰を下したまま、いろいろ妻を慰め出した。
おれは勿論口は利けない。
体も杉の根に縛られている。
が、おれはその間に、何度も妻へ目くばせをした。
この男の云う事を真に受けるな、何を云っても嘘と思え、――おれはそんな意味を伝えたいと思った。
しかし妻は悄然と笹の落葉に坐ったなり、じっと膝へ目をやっている。
それがどうも盗人の言葉に、聞き入っているように見えるではないか?
おれは妬しさに身悶えをした。
が、盗人はそれからそれへと、巧妙に話を進めている。
一度でも肌身を汚したとなれば、夫との仲も折り合うまい。
そんな夫に連れ添っているより、自分の妻になる気はないか?
自分はいとしいと思えばこそ、大それた真似も働いたのだ、
――盗人はとうとう大胆にも、そう云う話さえ持ち出した。
盗人にこう云われると、妻はうっとりと顔を擡げた。
おれはまだあの時ほど、美しい妻を見た事がない。
しかしその美しい妻は、現在縛られたおれを前に、何と盗人に返事をしたか?
おれは中有に迷っていても、妻の返事を思い出すごとに、嗔恚に燃えなかったためしはない。
妻は確かにこう云った、――「ではどこへでもつれて行って下さい。」
(長き沈黙)



read more▼


この記事へコメントする















kinkun

Author:kinkun
名古屋春栄会のホームページの管理人

01 | 2024/02 | 03
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 - -