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黒澤明監督の映画『羅生門』の原作は、

芥川龍之介の『羅生門』ではなく、『藪の中』です。

今日の名古屋は一日雨が降っています。そのため、この間までの暑さが嘘のように涼しい一日でした。
そして、『藪の中』を思い出しました。
私はなぜか『藪の中』は、秋の初めか夏の終わりの話だと思っていました。
しかし、あらためて読み返してみると、季節は全く特定されていません。それなのに、なぜ秋の雨からこの話を思い出したのかと考えてみると、映画『羅生門』の影響ではないかと気付きました。
映画『羅生門』は話の筋は『藪の中』を原作としていますが、舞台は小説『羅生門』を元にしています。
そして小説『羅生門』は秋の雨の夜の話なのです。

藪の中』は、藪の中で起こった殺人事件を7人の関係者が証言、あるいは告白するという形式です。
そして、それぞれの言葉がみな説得力はあるものの食い違っているため、真相はどうだったのか、誰が犯人だったのかは全てわからないまま終わってしまいます。
ちなみに、関係者の主張が食い違ったり、証拠が不十分だったりなどの理由で、真相がはっきりしないことを「藪の中」というのは、この小説のタイトルに由来しています。
今日から、7人を一人ずつ紹介します。

『藪の中』(芥川龍之介)

検非違使に問われたる木樵りの物語

さようでございます。
あの死骸を見つけたのは、わたしに違いございません。
わたしは今朝いつもの通り、裏山の杉を伐りに参りました。
すると山陰の藪の中に、あの死骸があったのでございます。
あった処でございますか?
それは山科の駅路からは、四五町ほど隔たって居りましょう。
竹の中に痩せ杉の交った、人気のない所でございます。
死骸は縹の水干に、都風のさび烏帽子をかぶったまま、仰向けに倒れて居りました。
何しろ一刀とは申すものの、胸もとの突き傷でございますから、
死骸のまわりの竹の落葉は、蘇芳に滲みたようでございます。
いえ、血はもう流れては居りません。
傷口も乾いて居ったようでございます。
おまけにそこには、馬蠅が一匹、わたしの足音も聞えないように、べったり食いついて居りましたっけ。
太刀か何かは見えなかったか?
いえ、何もございません。
ただその側の杉の根がたに、縄が一筋落ちて居りました。
それから、――そうそう、縄のほかにも櫛が一つございました。
死骸のまわりにあったものは、この二つぎりでございます。
が、草や竹の落葉は、一面に踏み荒されて居りましたから、
きっとあの男は殺される前に、よほど手痛い働きでも致したのに違いございません。
何、馬はいなかったか?
あそこは一体馬なぞには、はいれない所でございます。
何しろ馬の通う路とは、藪一つ隔たって居りますから。




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kinkun

Author:kinkun
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