2007/09/25 20:12:41
かぐや姫の昇天
夜は更けて午前0時頃、竹取の翁の家の周辺が、昼間の以上に明るさで光ります。満月の明るさを十倍にしたぐらいの明るさです。
大空から人が雲に乗って、降りてきて、地上から5尺(約165cm)程の上の空中に立ち並びます。
これを見て、家の内外にいる人々の戦う気分も萎えてしまいます。弓を構えて矢をつがえようとしても、手に力が入りません。そして、互いに顔を見合わせているだけです。
雲に乗っている天人たちは清らかで美しく、空飛ぶ車を1台が用意されており、薄絹を張った天蓋がさしかけてあります。
天人一行の中の王と思われる人が、竹取の翁に、「かぐや姫は、罪を犯したので賤しいおまえの元にしばらくいたのだ。もう充分罪を償ったので、こうして迎えに来たのだ。早くかぐや姫を出しなさい。」と命じます。
竹取の翁は、「ここにいるかぐや姫は、風病を患い、腫れ物だらけになって、顔もみせられません。」と答えます。
王らしき天人は、それに返事もせずに、屋根に空飛ぶ車を寄せ、
「かぐや姫、禊の済んだ今、この穢れた地上にいつまでいるつもりなのです。」と誘います。
すると、厳重に締め切ったはずの戸が、即座に大きく開きます。
抱きかかえていた嫗の手を優しく振り払って、かぐや姫が表へ出てきます。
そして、竹取の翁に近寄り、「せめて天に昇るところだけでも、お見送りください。」とささやきますが、翁は、「どうして、わしを見捨てて昇天するのか。」を泣き伏します。
かぐや姫の心も乱れ、泣きながら文を書きます。
この国に生まれたのなら、両親の最期を看取ってから娘の私が旅立つというように、長い間おそばにいるのが世の習いですが、そういうわけにもいかず、こうしてお別れすることはつらくてたまりません。私の体で温めたこの着物を脱ぎますから、どうか形見と思ってご覧下さい。月の輝く夜には、そこに住むう私を思って、眺めてください。あまりにも心残りなので、道中、空からでも落ちて地上へ舞い戻ってしまいそうな気分です。
天人の一人が箱を二つ、持ってきます。一つには「天の羽衣」が、もう一つには「不死の薬」が入っています。
かぐや姫は、名残惜しむかのように、ゆっくりと1枚ずつ着物を脱ぎます。
すると、天人は箱から「天の羽衣」を取り出して、かぐや姫に着せようとします。
かぐや姫は、「しばらく待て。」とその天人を制し、帝あての文をしたためます。
こんなに大勢の人々を派遣して、私を引きとめようとなさったお心が胸にしみます。しかし、迎えがやってまいり、私を連れて行ってしまうのは無念で悲しいことです。宮仕えしないままでいたのも、このような身の上だからです。帝のご好意を強情に突き返してしまったことで、無礼な者とお思いになり、そのままあなたの心に残ることだけが気がかりです。
今はとて 天の羽衣 きるおりぞ 君をあはれと 思ひいでける
この文に「不死の薬」を添えて、頭中将を呼び寄せて、帝に渡すように頼みます。
天人が、かぐや姫に「天の羽衣」を着せると、かぐや姫の、この世での記憶や感情が闇のなかに吸い込まれていき、あとにはまっさらな記憶と、平安な心だけが残ります。
かぐや姫と呼ばれた「天の羽衣」を着た天人は、憂い悩みこともなく、空飛ぶ車に乗って、100人ほどの天人を伴って、天に昇ってしまいます。
月から天人の一行がかぐや姫を迎えに来る場面が、「竹取物語絵巻」に描かれています。
『高島藩主諏訪家伝来 竹取物語絵巻 下巻 絵4』(諏訪市博物館蔵)
夜は更けて午前0時頃、竹取の翁の家の周辺が、昼間の以上に明るさで光ります。満月の明るさを十倍にしたぐらいの明るさです。
大空から人が雲に乗って、降りてきて、地上から5尺(約165cm)程の上の空中に立ち並びます。
これを見て、家の内外にいる人々の戦う気分も萎えてしまいます。弓を構えて矢をつがえようとしても、手に力が入りません。そして、互いに顔を見合わせているだけです。
雲に乗っている天人たちは清らかで美しく、空飛ぶ車を1台が用意されており、薄絹を張った天蓋がさしかけてあります。
天人一行の中の王と思われる人が、竹取の翁に、「かぐや姫は、罪を犯したので賤しいおまえの元にしばらくいたのだ。もう充分罪を償ったので、こうして迎えに来たのだ。早くかぐや姫を出しなさい。」と命じます。
竹取の翁は、「ここにいるかぐや姫は、風病を患い、腫れ物だらけになって、顔もみせられません。」と答えます。
王らしき天人は、それに返事もせずに、屋根に空飛ぶ車を寄せ、
「かぐや姫、禊の済んだ今、この穢れた地上にいつまでいるつもりなのです。」と誘います。
すると、厳重に締め切ったはずの戸が、即座に大きく開きます。
抱きかかえていた嫗の手を優しく振り払って、かぐや姫が表へ出てきます。
そして、竹取の翁に近寄り、「せめて天に昇るところだけでも、お見送りください。」とささやきますが、翁は、「どうして、わしを見捨てて昇天するのか。」を泣き伏します。
かぐや姫の心も乱れ、泣きながら文を書きます。
この国に生まれたのなら、両親の最期を看取ってから娘の私が旅立つというように、長い間おそばにいるのが世の習いですが、そういうわけにもいかず、こうしてお別れすることはつらくてたまりません。私の体で温めたこの着物を脱ぎますから、どうか形見と思ってご覧下さい。月の輝く夜には、そこに住むう私を思って、眺めてください。あまりにも心残りなので、道中、空からでも落ちて地上へ舞い戻ってしまいそうな気分です。
天人の一人が箱を二つ、持ってきます。一つには「天の羽衣」が、もう一つには「不死の薬」が入っています。
かぐや姫は、名残惜しむかのように、ゆっくりと1枚ずつ着物を脱ぎます。
すると、天人は箱から「天の羽衣」を取り出して、かぐや姫に着せようとします。
かぐや姫は、「しばらく待て。」とその天人を制し、帝あての文をしたためます。
こんなに大勢の人々を派遣して、私を引きとめようとなさったお心が胸にしみます。しかし、迎えがやってまいり、私を連れて行ってしまうのは無念で悲しいことです。宮仕えしないままでいたのも、このような身の上だからです。帝のご好意を強情に突き返してしまったことで、無礼な者とお思いになり、そのままあなたの心に残ることだけが気がかりです。
今はとて 天の羽衣 きるおりぞ 君をあはれと 思ひいでける
この文に「不死の薬」を添えて、頭中将を呼び寄せて、帝に渡すように頼みます。
天人が、かぐや姫に「天の羽衣」を着せると、かぐや姫の、この世での記憶や感情が闇のなかに吸い込まれていき、あとにはまっさらな記憶と、平安な心だけが残ります。
かぐや姫と呼ばれた「天の羽衣」を着た天人は、憂い悩みこともなく、空飛ぶ車に乗って、100人ほどの天人を伴って、天に昇ってしまいます。
月から天人の一行がかぐや姫を迎えに来る場面が、「竹取物語絵巻」に描かれています。
『高島藩主諏訪家伝来 竹取物語絵巻 下巻 絵4』(諏訪市博物館蔵)