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今日は、「河童」の第8章を紹介します。

芥川龍之介の「河童」の紹介が長く中断してしまいました。
今日から3か月ぶりに再開します(2009年8月5日の日記参照)

この章で、主人公は、資本家のゲエルを通じて、河童の国の工業生産について知ったことを述べています。

この章の前半で、芥川は、書籍製造会社の技師の口を借りて、くだらない本や、雑誌が大量に出版され読まれている日本の現状を批判しています。

これはろばの脳髄ですよ。ええ、一度乾燥させてから、ざっと粉末にしただけのものです。時価は一噸二三銭ですがね。


河童』(芥川龍之介)



 僕は硝子会社の社長のゲエルに不思議にも好意を持っていました。ゲエルは資本家中の資本家です。おそらくはこの国の河童の中でも、ゲエルほど大きい腹をした河童は一匹もいなかったのに違いありません。しかし茘枝に似た細君や胡瓜に似た子どもを左右にしながら、安楽椅子にすわっているところはほとんど幸福そのものです。僕は時々裁判官のペップや医者のチャックにつれられてゲエル家の晩餐へ出かけました。またゲエルの紹介状を持ってゲエルやゲエルの友人たちが多少の関係を持っているいろいろの工場も見て歩きました。そのいろいろの工場の中でもことに僕におもしろかったのは書籍製造会社の工場です。僕は年の若い河童の技師とこの工場の中へはいり、水力電気を動力にした、大きい機械をながめた時、今さらのように河童の国の機械工業の進歩に驚嘆しました。なんでもそこでは一年間に七百万部の本を製造するそうです。が、僕を驚かしたのは本の部数ではありません。それだけの本を製造するのに少しも手数のかからないことです。なにしろこの国では本を造るのにただ機械の漏斗形の口へ紙とインクと灰色をした粉末とを入れるだけなのですから。それらの原料は機械の中へはいると、ほとんど五分とたたないうちに菊版、四六版、菊半裁版などの無数の本になって出てくるのです。僕は瀑のように流れ落ちるいろいろの本をながめながら、反り身になった河童の技師にその灰色の粉末はなんと言うものかと尋ねてみました。すると技師は黒光りに光った機械の前にたたずんだまま、つまらなそうにこう返事をしました。
「これですか? これは驢馬の脳髄ですよ。ええ、一度乾燥させてから、ざっと粉末にしただけのものです。時価は一噸二三銭ですがね。」




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kinkun

Author:kinkun
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