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「松風の記憶」を読みました。

「松風の記憶 中村雅楽探偵全集5 」(戸板康二著、創元推理文庫、1365円、2007年11月30日発売)を今日、読了しました。

この本も、またまた600ページを超える厚さで654ページ。今回も、通勤の地下鉄で苦労しながら読み続けました。

今回は、2作しか書かれていない中村雅楽もの長編です。なお、著者は、そもそも長編は3作しか書いていません。
2作とも、初期の作品なので後にはほとんど書かれなくなる殺人事件を取り扱っています。

1作目は、表題作の「松風の記憶」です。この作品は、昭和34(1959)年12月7日から昭和35(1960)年5月18日まで180回にわたって東京新聞の夕刊の連載された著者唯一の新聞連載小説です。
著者は、この連載中の昭和35(1960)年1月に、「團十郎切腹事件」で直木賞を受賞しています。
この作品も、短編同様に雅楽のところに懇意の新聞記者・竹野が不思議な事件を持ち込み、雅楽がその謎を解き明かすという基本パターンで構成されています。また、短編でおなじみの江川刑事も登場します。
事件は、雅楽の親友の歌舞伎役者・浅尾当次の急死から始まりますが、事件の関係者のその後の生活がかなり詳細に記述され、次の死が起きるのは、作品の終盤、全体の8割が過ぎたところとなります。したがって、読者は、事件の関係者、中でも二人の女性が詳しく描かれますが、その二人を含む登場人物に感情移入しながら読み進むことになると思います。
このことが、この作品を他の長編推理小説(著者は、探偵小説という言い方が好きなようですが…)と異なる異色の作品にしていると共に、この作品に独特の深みを持たせているように感じます。
多くのミステリーでは、読者は探偵役か容疑者に感情移入して読むことが多いと思います。この作品で著者は、被害者も含めた登場人物の日常を詳細に描くことにより、読者にこの犯罪を憎む感情を強く持たせることに成功していると思います。

私は、この作品の終わり方は、あまり好きではありません。しかし、これは私の好みに過ぎず、この作品がすぐれたミステリーであることは間違いないと思います。

2作目は、「第三の演出者」です。この作品は、昭和36(1961)年6月に発行された書下ろし小説で、今回が初めての文庫化となります。
この作品は、新聞記者・竹野が、事件の関係者6人から聞いた話と自分が知っていることを手記にまとめ、その手記を読んで、雅楽がその謎を解き明かすという他の雅楽作品にはない形式です。
竹野を含む7人が手記で語る事件の話はバラバラで、これで、雅楽による解決がなければ、戸板康二版の藪の中というような作品です。
この作品で、雅楽は、一度も現場に行くことも、直接関係者から話を聞くこともなく事件の謎を解きますので、この作品は長編では難しいとされるアームチェア・ディテクティブものの長編での数少ない成功例の一つだと思います。

今回、著者がさまざまな新聞、雑誌などで中村雅楽について語ったエッセイ31編も付録として収録されています。
その中の1編「短冊」で、歌舞伎「松浦の太鼓」での初代中村吉右衛門を、『やがて隣の吉良家に討ち入りがあるという運びになるのだが、吉右衛門が、半紙に閉じた帖を左手に持ち、筆を時々とりあげては、案じた句をみずから添削している姿が、いかにも絵になっていた。』とほめた後で、『「松浦の太鼓」は愚劇だが、前の吉右衛門のこの場面は、忘れがたい。』と述べているのを読み、ちょうど一昨日に「松浦の太鼓」のことを書いたのを思い出し、その偶然に少し驚きました。
歌舞伎のことはもちろん、久保田万太郎の句会にも出席するほど俳句にも造詣の深かった著者の「松浦の太鼓」に対する評価がわかり、興味深かったです。

毎回出るのを楽しみにしていたこの全集が、今回で完結してしまい、少し寂しい気持ちです。



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kinkun

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